看護師の皆さん!残業代請求をあきらめる前に知っておいてください!~前編~

2020年12月17日

サービス残業が多すぎ!看護師の仕事を続けられる自信がなくなってきた・・・
長時間労働が続いていて看護師以外の仕事への転職を考えている・・・

 

ちょっと待って!

過酷な労働環境によって、体力も神経もすり減らしている方も多いと言われている看護師という職業。
深刻な人員不足を抱えていたり、それぞれ異なる患者への対応などもあることから、
残業が発生しやすい業界であると言われています。なかには、「残業代を請求できると思わなかった」という認識の方も少なくないようです。
看護師が残業代を請求できるケースや請求方法等を、労働問題に詳しい橋本太地弁護士が解説いたします。
正しく評価され、安心して働ける環境だからこそ、より良いサービス、業務に集中できるのではないでしょうか。ぜひとも参考にしてください!

 

1.看護師や医師の2割は未払い残業代を請求していない?

 

日本医療労働組合連合会の調査によると、看護現場ではなんと約7割もの医療関係者がサービス残業(不払い労働)を行っているという、驚くべき現実が浮き彫りになりました。さらに医療現場で働く1万1189人を対象に行った調査によると、不払い残業代の請求をまったくしていないという方が2割もいるという結果が出ています。
看護師さんたちが働く医療現場では、残業が常態化しているという現実があるようです・・・

 

2.看護師によくある未払い残業代が発生するパターン

 

では、なぜ看護師さんが働く現場では、未払いの残業代が発生しやすく、かつ請求をあきらめてしまう傾向があるのでしょうか。それは看護師が常に人員不足である点や、患者の看護という激務に加え、事務処理なども行わなければならない環境もその一因といえましょう。
しかし、看護師の専門性が高いこと、労働量が多いことと、残業代が支払われないことは全く別問題です。
当然、契約した労働時間をオーバーして働けば残業代が発生します。
にもかかわらず、看護師等、医療関係者の残業代が支払われないことの多いさには、次のような理由が考えられます。

 

  1. (1)患者対応を優先してしまうため

    病棟で働く看護師たちは、常に患者に頼られています。マニュアルはあっても、マニュアル通りの対応だけで業務はできません。普通でさえ多忙な上に、ナースコールが鳴れば看護師たちは事務的な業務は後回しにして対応することになります。患者さんの容態によっては、臨戦体制のこともあるでしょう。

    このような業務の特徴から、「定時で退勤する」ということが難しいという大前提があります。その上で、看護師が「患者対応があったから」という理由で残業したとしても、残業として計上しないのが常識になっていたり、申告しづらかったりする環境にあるようです。

 

  1. (2)仕事前の残業や研修などが多い

    看護師の現場では、上述したような患者対応による残業のほかにも、業務時間として認識されていない仕事が多数発生しています。結果、始業前の準備や掃除、参加しなければならない研修、事務仕事を持ち帰る等が当然のように横行している現場もあります。
    職場に命じられて行う掃除や準備、研修は業務時間である」ということは基本です!

 

  1. (3)「契約上、残業代は出ない」?

    残業代について上司に問いただしても「看護師として契約している以上、残業代は出ない」もしくは「含まれている」などと言われてしまい、あきらめてしまうことも多くあるようです。具体的には次のようなケースです。

    変形労働時間制だから残業代は出ない?
    特に入院設備がある医療機関での業務は、年中無休で行われます。そのため、多くの看護師は、1日や1週間ごとではなく、月や年ごとに労働時間が決められた「変形労働時間制」によって採用され、働いています。
    変形労働時間制とは、1か月以内、1年以内又は1週間以内など、一定期間の間において、1週間当たりの平均所定労働時間について、労働基準法上の法定労働時間を超えて労働させることが認められている制度です。この制度を導入する場合には、就業規則などに定められていることが必要です。しかし、変形労働時間制であっても、所定労働時間をオーバーして働いた分については、当然に残業代が発生し、残業代を請求することができます。

    まだ半人前だから残業代は出ない?
    新人や若手など、経験の浅い看護師は残業時間が長くなる傾向があります。「まだ半人前なのだから、準備は勉強であり、労働ではない」という認識を押し付けられている現実があるようです。しかし、キャリアや熟練度によって、こなせる仕事量が変わるのは、看護師に限らず、どの業種であろうと当然のことです。その違いは基本給や手当で反映させるべきであり、サービス残業を正当化させる理由にはなりません。

    看護師長は管理監督者だから残業代は出ない?
    労働基準法上、管理監督者には労働時間や休日労働などについての労働基準法の規定が適用されないことになっています。この規定を理由に、看護師長は管理監督者にあたるから残業代は支給しないと言われることがあります。
    確かに看護師長は、所属する看護師たちが行う業務や監督を行う立場です。しかし、管理監督者は、事業主の経営に関する決定にコミットし、労務管理に関する指揮・監督権限があり、自分自身の労働時間のコントロールも行える立場にあることを指します。自らの勤務時間を決められない、採用や労働条件の決定などの労務管理に携わっているわけではない場合は、管理監督者にはあたりません。なので、残業代の請求は可能です。
    なお、仮に管理監督者にあたる場合でも、深夜労働の割増料を請求することはできます。

  2. 後編では具体的な対処法を示して参ります。